スキンケア②

 スキンケアというと、人間の世界での美しい肌を保つために女性を中心に化粧水、乳液、美容液、パックなどの基礎化粧品を使って、乾燥や美肌、アンチエイジングのためのものであり、フサフサの被毛におおわれた動物達には縁のない世界・・・というイメージはありませんか?健康な肌は人間でも過剰なお手入れは無用ですが、トラブルを感じる肌だと、あの手この手のお手入れが必要になります。それは動物においても同じことなのです。

 今回は皮膚のトラブルの多い犬について述べていきたいと思います。人間の皮膚の生まれ変わり(ターンオーバー)は約28日といわれていますが、犬では約2022日(約3週間)で、健康な皮膚の場合生まれ変わって落ちるフケ(落屑)はほとんどめだちません。皮膚の一番外側の角質層は「バリアー層」として働き、乾燥防止や細菌などからの防御の役割をしています。

 しかし、犬に肌トラブル(乾燥、細菌・真菌・酵母菌感染、寄生虫、アレルギー、膿皮症、脂漏症など)があると正常なターンオーバーのサイクルがくずれ、37(1週間)と短くなってしまいます。それによってフケの量が増える・・・という現象が見られるようになります。肌としては、アレルギー物質や病原体を振り落とそうとターンオーバーを早めるのですが、もともと人間よりも表皮が薄い(人間の1/51/6程度。赤ちゃんよりも薄いのです)犬には、バリアー層にある角質を落としてしまうことは、さらなる防御機能の低下となり、皮膚のトラブルは悪循環に陥ってしまいます。

 健康な皮膚は、角質層がきれいに並び水分と健全な脂分が含まれ、それをセラミドがつないでいます(セラミドは水と脂の両方を捕まえる性質を持っています)。角質の並びがくずれたりセラミドの量が少ないと水分を捕まえられずに乾燥したり、脂分が変性して不健全な脂となって漏れ出したり、さらに皮膚を荒らします。荒れた肌は独特の臭気を放ちます(変性した皮脂やアポクリン汗腺の臭いなど)。アトピー体質の犬達は、生まれつき角質層の並びがくずれやすい、セラミドの量が少ないなどの特徴を持っているため、常に肌は荒れてバリアー機能がうまく働かず、感染しやすかったり、痒みに悩まされたりします。何とかしてあげたいですね。

 

シャンプー療法について

 犬にシャンプーをするのは大きく分けて2つの目的があります。1つは、健康な皮膚の犬の美容のために、清潔で美しい毛並みを保つためのものです。もう1つは、皮膚にトラブルのある犬に対し、治療としていらないものを洗い流したり足りないものを補ったりするためのものです。健康な皮膚の犬は正しいシャンプー方法(後述します)を守れば、洗い上がり、香りなどの好みで選んでもらってよいと思います(美容用のシャンプーでもフケ、痒み、敏感肌、保湿、犬種、毛色などに考慮されたものも多数出回っています。この場合のフケ、痒みなどは予防的なものと考えてください)。美容目的のシャンプーは、いわば「ヘアケア」を目的とするものといえるでしょう。

 一方、薬用シャンプーは現に皮膚トラブルを抱えている犬のためのものであり、「スキンケア」を目的としたものといえます。イメージとしては「全身に外用薬を塗って一定時間反応させて余計なものを取り除き、不足しているものを補う作用」と考えてもらうとよいと思います。具体的に薬用シャンプーを使って取り除くことが期待できるものは、病原体、角質、痒み、フケ、かさぶた、過剰な皮脂、ワックス状の皮脂などであり、補うことが期待できるものは、水分や水分と脂分をむすびつけるセラミドなどです。

 薬用シャンプーも数え切れないほどの種類がありますが、大きく分けて抗菌性シャンプー(細菌や酵母菌の増殖による膿皮症やマラセチア皮膚炎による皮膚トラブルを減少させることを目的とする)、角質溶解シャンプー(角質層の過剰な増殖による皮膚トラブル、荒れた皮膚やフケ、過剰な皮脂を取り去ることを目的とする)、保湿性シャンプー(角質層のつくりの弱さによる皮膚トラブルを防止し、乾燥している肌に潤いを与え、フケをおさえることを目的とする)、止痒性シャンプー(痒みを抑え、痒みによる皮膚トラブルを緩和することを目的とする。心因性の舐性皮膚炎にもちいることもある)の4つに分けられます。各シャンプーはそれぞれ特徴があり、使用が推奨されるシャンプーは個々のケースや治療段階によって異なります。動物の体質により刺激が強くて合わなかったり、動物の種類(猫など)によっては使えないものがあったり、使用回数制限があるシャンプーもありますので、使用に際しては獣医師のアドバイスが必要でしょう。 

また、アトピー性皮膚炎の場合、生まれつき角質層のつくりが弱いので肌トラブルを起こしやすいうえ、環境中のアレルゲンや皮膚にいる細菌、酵母菌にアレルギー反応を起こしているケースもあります。アレルゲンを取り去るためのシャンプーはその意味でも重要です。皮膚トラブルには内服薬も使用しますが、皮膚は全身のなかでも薬の成分の届きにくい部位であり、内服薬で内側から、シャンプーで外側からのケアが有効とされています。内服薬の量や種類を減らすためにも薬用シャンプーは強い味方となります。

 

シャンプーの方法について

なんとなくシャンプーをするのと、正しい方法でシャンプーを実施するのでは効果に雲泥の差が出ます。もう一度シャンプーのやり方を再確認してみてください。

 

   犬の被毛を目の荒いコーム(くし)で全体的にサッととかし、抜け毛や毛玉をとっておく(スリッカーやブラシでガリガリとかしてはいけません)。

   2530℃くらいのぬるめの水5分以上かけて毛の根元から皮膚まで充分にぬらす(薬用シャンプーの効果を充分に発揮させるためには、角質がしっかり水になじんでいることが重要です)。シャワーヘッドを体に密着させて水を掛けると水流の刺激や音も少なく、水を怖がらずに体を濡らすことができます。

   薬用シャンプーを全身の皮膚に付着するようによくなじませ、10分以上置く(症状のひどい所から洗いはじめる。シャンプーの成分がしっかり角質に作用するためには充分な時間が必要です。全身に塗り薬を塗り、水で軟らかくなった角質に薬用シャンプーを浸透させるイメージです。日常使う軟膏などの外用薬も塗ってすぐ舐めとってしまえば充分な効果が期待できないのと同様、シャンプーも皮膚に密着している時間が重要です。お勧めはタイマーで時間を計ってください。かさぶたがある時やワックス状の皮脂がある時は時間をかけて優しくかさぶたを取り除いたり、シャンプー前に皮脂をオイルとなじませきれいに取り除いたりしてください。しわの溝の部分も丁寧に洗いますが、趾間や肉球は特に優しく洗って下さい。また、短毛種はシャンプーの時強くこすらず毛の流れに沿ってシャンプーをなじませてください。毛並みに逆らって強い力でシャンプーをすると毛包炎をおこすことがあります)。

   シャンプー剤を5分くらいかけてしっかりとすすぐ(すすぎ残しはシャンプー後のトラブルのもとです。顔に水がかかるのを嫌がる犬は給水スポンジを利用し、それを顔の上でしぼりながらすすぎ洗いを行うのもよいです)。必要により、シャンプー後にコンディショナーを使用することもあります。

   しっかり水気をしぼり、タオルドライをします(皮膚に炎症があったり痒みのある犬はゴシゴシこすりすぎないように)。

   自然乾燥(痒みや炎症のある犬はドライヤーの風や熱も刺激になることがあります。ドライヤー乾燥より少し毛がゴワゴワしてしまいますが、自然乾燥も1つの方法です)もしくはドライヤーで乾かす(ドライヤーで乾かす時は、冷風もしくは送風口を体から30cm以上離して温風を使用します。乾いたタオルの上からドライヤーをかけると吸水したタオルが常に乾くので肌を守りながら効率よく乾かすことができます)。

 

 シャンプー後に肌が乾燥している時は、コンディショナーや保湿剤を使用します。シャンプー後の濡れた体に水に溶いてかけるタイプや、乾いた体にスプレーやムースで日常的に使用できるものもあります。美容シャンプーの場合も③以外は同様に考えて②~④までは10~15分以内で行うようにしてみてください。

 病院から飼い主さんにお願いする薬用シャンプーを使用するシャンプー療法(薬浴)は本当にとても大変ですよね。なかには協力的でない犬もいますし、薬浴中にブルブルをして飼い主さんまでもが泡だらけ、びしょ濡れになって悲しくなってしまうこともありますね。せっかく薬用シャンプーでのシャンプー療法を行うのであればぜひ、正しい方法で実施してください。大変なことは重々承知しておりますが、頑張った分だけ効果はあらわれるはずです。

 シャンプーだけで皮膚のトラブルを100%コントロールすることはできません。アトピーのように一生付き合っていかなければならないものもあります。うまくいかない時、思ったほど効果が感じられない時、心が折れそうになった時はご相談ください。「シャンプー(Shampoo)」とは、もともとヒンディー語で「マッサージする」という意味の単語からきているといわれています。薬用シャンプーは美容シャンプーの「洗う」目的よりそちらに近いかもしれませんね。ぜひ、愛犬をマッサージするようなつもりで薬用シャンプーによるスキンケアを実施してください。

 

 

参考文献:DERMATOLOGY 2010July Vol.1 No.4 特集 シャンプー療法アップデート

その有用性を存分に引き出す!

CLINIC NOTE 2011Aug No73 特集 シャンプー療法はもっと活かせるはず!

 

~正しい使い方と継続が導くその効果~