フィラリア予防薬で駆虫できる寄生虫と人への感染

 

 

 

(ミルベマイシンA・カルドメックチュアブル・イベルメック・ネクスガードスペクトラ)

 

 

 

 

 

1.犬糸状虫(フィラリア)

犬糸状虫(フィラリア)の感染には、蚊が重要な役割を持っています。

犬糸状虫感染犬蚊が血液といっしょにミクロフィラリアをとりこむ蚊の体内でミクロフィラリアが感染仔虫に成長する蚊が他の犬を吸血した時に感染仔虫をおいていく感染成立犬糸状虫が心臓に寄生

犬糸状虫は、犬の心臓や肺動脈に寄生して犬に右心不全をひきおこし、それにともなって全身のうっ血から肝硬変、腎不全などをおこし、死に至らしめる寄生虫です。

感染した犬は、咳、運動を嫌がる、削痩、貧血などの症状が見られます。多くは慢性経過をとり、はっきりした症状を示さず徐々に衰弱していきますが、急に血色素尿や呼吸困難、虚脱を起こし、突然死をする急性型(大静脈症候群)に移行することもあります。

死亡率の高い感染症ですが、予防法が確立されているので『犬糸状虫感染期間』にもとづいた予防薬の確実な投与により、犬を犬糸状虫から守ることが可能です。予防薬は上記の『』の時に犬糸状虫を駆虫するものです。

犬糸状虫は犬のみではなく、猫やフェレット、その他野生動物も感染します。

 

人への感染:極めてまれです(偶発感染)。人の体内で成虫になることは少ないですが、肺の中で腫瘤(こぶ)をつくり、肺動脈の塞栓や血痰、胸の痛み、呼吸困難をひきおこすことがあります。また、ごくまれに皮下や腹腔にも腫瘤をつくることがあります。

 

2.回虫(犬回虫・猫回虫)

 犬や猫の小腸内にミミズ状の虫が寄生し、小腸内の消化した食物を横取りして栄養源としています。回虫は1018cmと大きいので、子犬に大量寄生すると消化吸収を妨げられて発育不良になったり、腸を詰まらせたりします。虫の刺激で腸に炎症が生じたり、腹痛、下痢、嘔吐(時に虫体を吐く)を起こしたりすることもあります。また、回虫は腸の中だけにとどまらず全身を移動するので、その時に呼吸器や肝臓に障害をあたえることもあります。

感染経路は4ルートあります。

   感染母犬の胎盤を通じて母犬から子犬へ(胎盤感染)

   感染母犬の乳汁をのむことで母犬から子犬へ(乳汁感染)

   環境中の感染能力のある虫卵を口から摂取する(経口感染)

   回虫を体内に持っているネズミや鳥などを食べて幼虫が動物の体内に入りこむ

経口感染のうち、生後2~3カ月の子犬の場合は、摂取された虫卵は小腸で孵化し、体のあちこちをめぐって2カ月ほどで成虫になり、小腸に戻ってきて産卵し、回虫卵を環境中にばらまきます。生後3カ月以上の子犬や成犬の場合は、摂取された回虫卵は小腸で孵化した後、全身の組織に分布してそこにとどまります。(妊娠すると胎盤をとおして子犬に移行していきます。)また、猫の場合は成猫になっても小腸に寄生して回虫卵を環境中にばらまき続けます。

 

人への感染:人は③か④のルートによって感染します。

③の経口感染の場合は、砂場や犬や猫の体や毛についた回虫卵が(動物に触った後や回虫卵が付着しているものに触った後)手に付着して口に入ったり、口もとに回虫卵をつけた犬に舐められたりすることなどにより感染します。回虫卵はベタベタした糊状の膜におおわれたくっつきやすい構造をしており、動物の肛門周り、口もと、足(お散歩でくっつけてくる)、抜け落ちた毛などに付着していることが多いです。

①のルートの場合は、鶏レバー(地鶏など)の生食(かつては牛レバ刺など)によって感染することが知られています。

犬回虫は人にも感染しますが、回虫にとって人は居心地が良くないので幼虫のまま体のあちこちを移行します(幼虫移行症)。ほとんどは肝臓で死滅しますが、まれに内臓や眼に入り込んで障害をおこします(重症の場合は失明します)。予防には動物の定期的な駆虫と、節度のある接し方が大切です。

 

3.鉤虫(犬鉤虫・猫鉤虫)

鉤虫は、1.52cmくらいの大きさで、3対の鋭い歯牙で腸粘膜に咬みついて寄生し、血液を吸い取って栄養源にしています。そのため犬は、血便(黒色便)や食欲不振、腹痛、失血による慢性の貧血をおこします。抵抗力の弱い子犬の場合は、激しい下痢や血便のために衰弱死することもあります。

感染経路は4ルートあります。

   胎盤感染

   乳汁感染

   経口感染(回虫とは異なり、環境中に排泄された.鉤虫卵が孵化して脱皮し、感染幼虫となったものを口から摂取してしまうことにより感染)

   経皮感染(感染幼虫が皮膚や毛穴から入りこむことにより感染)

人への感染:感染幼虫がまれに経皮感染し、皮膚炎やミミズ腫れ(皮下を虫が移動するためにおこる)をおこすことがあります。皮膚の下を虫がはいまわるので強いかゆみが出ます。

 

4.犬鞭虫

犬鞭虫は、盲腸の腸壁に頭をもぐりこませて血液や体液を吸引して寄生しています。そのため、犬に腸炎、下痢、軟便、血便、粘血便をひきおこします。子犬よりも成犬に多くみられる感染症です。少量寄生の時ははっきりした症状を示さず、時々血液の混ざった粘液便が出る程度のこともありますが、重度の場合、大腸性慢性下痢、タール状の血便などがみられたり、痩せたり毛並みが悪くなったりします。

鞭虫は、虫体の2/3は細くて後ろは太く鞭のような(根っこの長いもやしのような)形をしています。卵の状態で経口感染しますが、鞭虫卵は高温多湿を好み、抵抗力も強く、戸外の土中に5年以上生存することもあります。お散歩コースが(野生動物なども含めて)鞭虫卵に汚染されているときはとても危険です。

犬鞭虫は盲腸にもぐりこんでいる虫なので、前述の3つの寄生虫よりも駆虫には多くの薬を必要とするケースもあります。感染経路は経口感染のみです。

 

 

人への感染:感染力をもった卵を人が経口摂取してしまった場合、まれに腸管で成虫になるといわれています。