犬のフィラリア症(犬糸状虫症)とは?

 

犬の心臓にそうめん状の虫が多数寄生し(オス:1520cm、メス:2530cm)、放っておくと死亡してしまう病気です。この病気は犬が、フィラリアの仔虫を持っている蚊にさされることによって、かかってしまいます。最近でも日本の犬の全国平均の感染率は50%前後と言われています(1999年のデータ)。2015年に実施された全国的な調査でもまだまだ感染は全国的にみられ、もちろん東京都も例外ではありませんでした(獣医師向けインターネットサイトによるアンケート調査)。予防薬の普及により、以前よりフィラリア症にかかっている犬はずいぶんと減少しましたが、すでにフィラリア症にかかっている犬がいる限りすべての犬は感染の危険にさらされています。また、犬だけでなく野生動物も感染しますので、野生動物を介した感染もあるためしっかりとした予防は引き続き必要になります。

 

犬以外の感染
フィラリア(犬糸条虫)の本来の寄生動物(終宿主)は犬ですが、猫、フェレット、タヌキなどにも寄生することがあります。また、ごく稀に人での寄生も報告されています。

 

どのようにして感染するのでしょうか?
フィラリアに感染している犬を蚊が吸血し、蚊の体内にミクロフィラリア(第1期幼虫:0.3mm)が入り込む。

蚊の体内でミクロフィラリアは2回脱皮して感染力を持つようになる。

  第1期幼虫  →  第2期幼虫  →  感染第3期幼虫(約7mm)
        脱皮        脱皮

体内にフィラリアの仔虫(感染第3期幼虫)持った蚊が犬を吸血したとき吸血孔から仔虫が犬の体内に入り込む。

仔虫は犬の体内(筋膜下、皮下組織、脂肪組織、筋肉内など)で2回脱皮して成長する。

  第3期幼虫  →  第4期幼虫  →  第5期幼虫(約2cm)

 (1~10日) 脱皮(5068日) 脱皮   (90120日)

仔虫(第5期幼虫)は血管(静脈)に入り込み、血流に乗って心臓(右心室)へ入り、成虫になり新たなミクロフィラリアを産む(感染後約6ヶ月)。

☆犬に主要な病害が発生するのは心臓に幼虫が移行する感染後約4ヶ月以降、血液中にミクロフィラリアが現れるのは感染後約6ヶ月以降となります。

 

気温と蚊の関係

気温が2531℃の時が、蚊の体内にいるミクロフィラリアにとって最適温度となります。気温が15℃以下または34℃以上では蚊の体内で成長しないといわれています。

 

フィラリアの寿命
フィラリアは犬に感染して約6ヶ月で成虫になります。成虫の寿命は56年です。フィラリアが生み出したミクロフィラリアの寿命は12年です。

 

血液中のミクロフィラリアについて
ミクロフィラリアは時間帯により、血液中を泳いでいる数が変動します。昼間はかくれて、蚊の活発に活動する夕方4時~翌朝4時(最も多いのは夜10時ごろ)くらいにたくさん末梢血中に現れます。(日中の約6.5倍)

 

オカルト感染とは?
フィラリアの成虫が心臓に寄生しているのに、血液中にミクロフィラリアが検出されない状態をオカルト感染と言います(感染犬の25%)。オカルト感染は、オスあるいはメスだけの寄生の時、ミクロフィラリアの殺虫効果のあるフィラリア予防薬を飲んだため、心臓に成虫がいても血液中にミクロフィラリアがいない時、数がとても少ない時におこります。

 

フィラリア症を予防しないと?
予防しないまま、1夏を越した犬の38%、2夏を越した犬の89%、3夏を越した犬の92%がフィラリア症にかかるというデータがあります。感染した犬のうち、症状があらわれるのはこのうち約40%程度です。

 

感染するとどのような症状が出るのでしょうか?
A.慢性犬糸状虫症(約95%)

フィラリアに感染して、症状が出る割合・・・36.9
症状:元気↓、食欲↓、栄養状態↓、毛艶が悪くなる、疲れやすい、貧血、黄疸、咳、呼吸困難、失神、むくみ、腹水、胸水など

B.急性犬糸状虫症(大静脈症候群)(約5%)
発症前には、ほとんど症状がない(まれに咳がみられる程度)。突然発症し、ほとんどが助からない。
症状:元気食欲廃絶、重度の貧血、血色素尿(赤い尿)、呼吸困難、不整脈、心雑音、頚静脈拍動など

 

予防法
1回の血液検査と、月1回の予防薬の内服等で感染から守ることができます。

 

なぜ検査が必要か?
フィラリア症に感染している場合、予防薬を飲むことにより血液中のミクロフィラリアが急速に死んで毛細血管につまることでショック症状を起こして犬が死亡してしまう危険を避けるためです。


血液検査の方法

検査にはいくつかの方法がありますが、主なものは次の3つです。

直接法:血液を1滴直接顕微鏡で観察しミクロフィラリアの有無を調べる。検出率は約50%。前年の不完全な予防、血液中にミクロフィラリアの泳いでいる時間帯などで必ずしも正確な結果が出ないことがある。

集虫法:ある程度まとまった血液を遠心したりフィルターを通したりしてミクロフィラリアの有無を調べる(直接法より検出率があがる)。

フィラリア成虫の抗原検査:血液を薬剤と反応させ、フィラリアの成虫から排泄される微量な物質を抗原抗体反応(検査キット)でみる方法。検出率90%以上(オスのみの寄生、感染後6ヶ月以内の未成熟虫の寄生などでは検出されないこともある)。

 

予防の方法
現在フィラリアの予防薬は、飲み薬(粉剤、錠剤)、チュアブル(お肉型)、滴下薬があります。

いずれのタイプの薬も、フィラリアの仔虫が犬の体内に入りこんで成長し、血管に入り込むまでの第4期幼虫(薬によっては第3期幼虫と第4期幼虫)を駆虫するものです。血管内や心臓内に入り込んでしまった虫には効き目がありません。

そこで、犬がその年の最後に蚊に刺されたよりも後に予防薬を投与してあげるようにしなければなりません。(予防薬とはいっても、本質的には投薬したその時点で、薬が有効な段階のフィラリアの仔虫を駆虫するための薬です。これらの薬は、犬が蚊に刺されないというものでも、1ヶ月間持続的に駆虫し続けるものでもありません。薬は投薬後、速やかに体外に排出されます。)



予防の時期

予防薬の投与は、感染の危険のある約1ヶ月後から蚊のいなくなる約1ヶ月後まで必要になります。この地域では、通常5月から11月下旬もしくは12月上旬まで予防薬を投与することが必要になります。

不幸にも感染してしまった場合
無症状~軽度の場合は心臓内の成虫を駆虫してからミクロフィラリアを駆除しますが、重度感染の場合、成虫駆虫は不能となり治療が大変難しく、ほとんどが死亡してしまいます。

 

最後に・・・
フィラリア症は、とても怖い病気で、昔はこの病気によって多くの犬が亡くなりました。幸い、現在は良い予防薬、検査キットができ、きちんと薬を投与すれば予防できる病気になりました。春からはじめたフィラリア予防薬を、確実に最後の1回まで投与することが大切です。

 

蚊があまり見られなくなる1112月になると安心して忘れてしまいがちですが、その最後の1回の投薬が愛犬をフィラリアから守ってくれることを忘れないでください。